上下巻で半年以上かかってしまったけど読んでよかった。以前読んだのが10年以上前でやっぱりそれからいろんな作品を見てきたことでわかるところも多くなっていた。
ざっくりやけど、印象に残ったことをメモ的に。
・教科書を英語で読むというのが、結構それ自体鮮烈な読書体験になった。今、歴史の本とか読んでも、作者の解釈を読んでいるという感覚がどうしてもあるけど、この本はそういう気分にさせない。一つの解釈というより完璧な事実としての美術史を読んでる気分にさせられる。戸惑いがない文体。ものすごい客観性。日本語の教科書もあるていど、そういうふうに書こうとしているけど、英語ほど上手くはいかないんではないかと思う。この本を読むと、みなが同じ歴史観を持っているという気分になる。学生の時の気分を思い出した。
・特に第1次世界大戦くらいまでの印象として、欧州の各国は競い合っている。フランスはダメだといってイギリスが新しいスタイルに進んで行ったりする。それは美術史のみならず西洋の歴史として見ても、やっぱり隣国とよく戦っているなというのも思い起こされる。それと、これは日本の美術史を読んだときに全くなかった印象だった。日本の場合は隣国のものは競うというより、取り入れて好きなように使っちゃおうとそんな印象だった。
・キュビズムと呼ばれるようになるピカソの功績は14世紀前半に築かれた西洋絵画の伝統を破っていくものだった。この本によれば、13-14世紀のイタリアの画家ジョット(wikipediaによれば「西洋絵画の父」とも呼ばれているらしい)にまでさかのぼる絵画の伝統を破壊したそうだ。それは、おそらく奥行きのある、一点透視図法などを含めた立体的な空間のことを指すと思う。700年変わらなかったものを変えたと思うとすごい。確かに、モネやセザンヌなど随分と絵画を変えて来た画家の絵を見ても奥行きや3次元性に関しては、従来の方法を踏襲しているなと思ったことはある。セザンヌは、パースは崩れていたりするので転換期ではあるかもしれないけど、ピカソほどではない。浮世絵の平面性など影響を受けた絵画は存在するけど、やはり浮世絵の影響を受けた絵画に留まり西洋絵画の内部から西洋絵画を破壊したのはこの時なんだろう。ピカソはアフリカ美術の影響は大きく受けたそうだ、キュビズムの芽生えの頃の作品ではいかにもアフリカ風という要素もあるが、進んでいくにつれそういった要素は影を潜めているように見える。
・第2次世界大戦後の美術のメインの舞台はアメリカ。ほとんどアメリカ中心に話が進む。その中でも、驚いたのが美術評論家クレメント・グリーンバーグの存在。ものすごい影響力を持ったように見える。どんな方向性で作ったらいいのか直接芸術家にアドバイスし、ある人とある人を引き合わせたり、自分が批評を書くということ以上に積極的にアメリカのアートに介入し、この人が歴史を潮流を作ったのではないとさえ思える。
・時々、作品の解釈を見る人に任せる作品がある。ストレートに伝えるというより、様々な解釈の余地を意図的に残し、人によって解釈が違うのは当然だし、観た人が考えればいいという方向性で作られるものだが、そういった作品が戦前・戦後あたりに出てきはじめた時代がある。モダニズムだと思っていたけど、今本から該当箇所が抜けなかったので、またみておく。抽象表現主義だったかもしれない。モダニズムをいつからとするか幅もあるようでわかりにくい。とにかく、そういう作品傾向のことが美術史の本に書かれているので驚いた。ちなみに、解釈を任せる作品はあまり好きでない。学生の時は自分でもやってたけど。
・懐古主義というのは日本人の特性だと思ってたけど、どうやら、西洋はもっと懐古主義。別に懐古主義が悪いというのもなくて、けっこう頻繁に古代ローマ・ギリシャの美術を参照する。立ち戻るところとしてのローマとギリシャ。
・本を読んで改めて気になった画家はレオナルド・ダ・ビンチ。絵画の点数も少ないし、やっぱりスーパースターだからか、現物はまだ見たことがないかもしれない。ものすごいマニアックに人を観察している感じ(モナリザが左右非対称)とか、絵の具にもこだわりをもっていろいろやってそのせいで絵画が早い時期からボロボロ(最後の晩餐)とかいろいろ面白い。ものすごい観察することとか、ドラマティクにというより現実的に考えてみようとする感じが、同時代の芸術家と一線を画している感じがする。実物見てみたい。
↓読んだ本。上巻はなくしてしまって買いなおした。その時に、版が違うのを買ってしまって実は上下巻微妙につながっていない。
今もっと新しい版が販売されてるようです。
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