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2016年10月29日土曜日

網野善彦を思う。「大妖怪展」(あべのハルカス美術館)。

「大妖怪展-土偶から妖怪ウォッチまで」を友人のさっちゃんと観に行った。


見に行った理由はいろいろあったけど、以前さっちゃんが「美と醜」という言葉を使っていて、自分にはない語彙にちょっとわくわくしたりした。人間を美と描くとか、醜と描くとか、妖怪という人間の一端を表しているはずの表現を土偶(縄文)から妖怪ウォッチ(現代)まで見たときに何かあるかもしれない、と思ったり。いろいろ考えたりするのが楽しくて、さっちゃんと行きたくなっていた。


行ってみると随分思っていたのとは違っていて、縄文から現代を網羅的に見せるというのは違い江戸の絵画が中心だった。サブタイトルにまでなっている「土偶」と「妖怪ウォッチ」は付け足しくらいの感じ。

絵巻物に描かれている絵や、墨を使ったりの日本風の絵を見てわくわくするのは、網野善彦の影響だったんだなぁと帰ってから気づくんやけど、絵はすごくよいものもたくさんあったのにちょっとだけ肩透かしを食らったような気分もしていた。

網野善彦がどのように絵巻物を見て解釈していたかというのは、『異形の王権』『日本の歴史をよみなおす』などを中心に彼の著作にに現れている。でも、一番印象的に網野善彦が絵巻物を読む姿が書かれていうのは『僕の叔父さん 網野善彦』(中沢新一著) の中でだ。少年・中沢新一と「伴大納言絵詞」を見る網野さんはこんな風に言ったらしい。長いけれど引用する。
「見てごらん。こういう絵の真ん中の部分には、世の中で偉いと思われている人々の姿が描いてある。有名な政治家や貴族なんかの姿ずら(私たちは会話にはよく甲州弁を用いた)。その人たちのしたことは、昔の歴史の本の中にもしっかり記録されている。だから、そんなものは気にしなくていいんだ。大事なのは、こういう隅っこに描かれている人たちの姿なんだ。よく見てごらん。みんな一人一人違う顔をしているだろう。着ているものも違うし、頭に被っているものも違う。それぞれの人の社会的身分だとか、なにを仕事にしているかもなんてことがそれから読み取ることができる。うん、たとえば、この人は職人だな。こっちのは下級の武士だ。みんなは燃え上がる応天門のほうを見つめているけれど、それぞれの人が考えてることは違う。そういうことまで、絵巻をみているとわかってくるんだよ。こういう人たちは、はでなことをしない。だから歴史的に重要な人たちとは考えられてこなかった。でも、この人たちはとっても深い世界の奥のほうから出てきているんだ。おじちゃんはそういう世界のことを調べている。面白いぞお」(p17)
そうやって絵を見る網野さんが、絵巻物に描かれた「そういう世界」の人々が日本でどんな存在だったか。社会の中で、その扱いはどう変化していくのかということを『異形の王権』などで説明していく。その解釈を読んだときに、網野さんは1本1本の線のひき方まで精密に絵を見て、そこからから中世を見て、それを言葉にしているという風に思った。

こんなことをイメージして、絵を見ようとすると江戸の絵はちょっと様子が違った。そもそも、「隅っこに描かれている人たち」はほとんどいなかった。風景すら描かれず、主題だけを描くことも普通であるようだった。今回、妖怪展なのでその主題というのはほとんどの場合妖怪。網野さんが扱ったような中世の絵巻物に比べて、妖怪展にあった多くの作品は現代でも理解しうる主題があるものが多く圧倒的にわかりやすい。「かっこよさ」「滑稽さ」「かわいさ」そんな感情で反応できるとことで、こちらを魅了してくる。ジブリ作品「平成狸合戦ぽんぽこ」の妖怪、「千と千尋の神隠し」の八百万の神の表現はこの辺から来ていて、村上隆の「五百羅漢」の表現もそうだと思う。パッと見て何かを思わせる「キャラ」の起こりはこの辺の時代にあるんやろな、と思った。そういう意味で江戸の妖怪の表現から、妖怪ウォッチまで連続性は容易に感じられる。

パッと見てわかる、主題だけを描ける、そういうのは網野さんが見せてくれた中世の絵巻物の世界とはぜんぜん違う。その場にあったものを残らず描いてしまうような表現・世界のとらえ方がその時代にはあったんだろう。だから、もし主題を抽出するならば画面には描かれないような、「はでなことをしない」人たちも隅っこに描かれてしまったりするんだろうと思う。

これは、その時代にそういう表現方法が確立されたというよりも、そのようにしか絵描くことができなかったのかもしれない。あったものをすべてを全体としてあつかうことから、江戸の妖怪のようになにかを抽出して鮮烈に主題を見せる手法へと向かうのは不思議ではなようにも思う。そのへんはもっといろいろ絵を見てみないとよくわからないけど、「中世の大転換」を経て絵画はそんな方向へ向かったのかもしれない。


妖怪展、面白かったです。

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