【CARAPACE】キャラペイスの場所 vol.7

2022年6月15日水曜日

CARAPACE

万年筆ホルダー。日々使ってます。

vol.7 壬寅歳弥生号


目次

1.発行が伸びてしまいました。
2.革の変化のイメージと実際の革


1.発行が伸びてしまいました。

4月1日発行予定の弥生号がすでに今日は6月15日です。
これだけ空いてしまったので次は6月29日に水無月号を発行しようかと思いましたが、今からでも追いかけようと弥生号を発行します。動画はお休みするかもしれませんが、文章を書いていきたいと思います。

ところで休んでしまった理由ですが、3月末に妊娠がわかりました。つわりがあり、他のもろもろとの兼ね合いで「キャラペイスの場所」にまで手が回らなくなってしまっていました。
やっとこの1-2週間ほどつわりもほぼ落ち着きという感じです。いろいろできなくなって、生活に関して考えるきっかけになりました。体調はこのまましばらく安定することを願います。

次の文章は、4月1日発刊のためにその時に書いていたものです。少し長いですが、革の色が変わるということを鞣しの違いから書きました。

2.革の変化のイメージと実際の革


「革というのは使っていくうちに味が出る、飴色に変化していく」という印象を多くの人がもっているのではないか。自分もそうだった。

牛の「生の皮」から「革」への加工方法は色々あるけれど、ざっくりいうと、クロム鞣しとタンニン鞣しという方法がある。

タンニン鞣しのみが「飴色へ」という変化をしていく。鞣しに使うタンニン自体がその変化のもとになるからだ。クロム鞣しはそういった変化をしない革で、そして現在、革はかなりの割合でクロム鞣しで作られているらしい。

なので、実際に流通している革の多くは、いわゆる飴色になる革ではない。そして、革の色が変化するタンニン鞣しの革は変化してしまうがゆえに、保管・流通も面倒なので、ある程度こだわりをもったお店などで主に扱われているんじゃないかと思う。なので、あまり調べずに何気なく手にする革はほぼクロム鞣し(その他コンビネーション鞣しなどの大きく変化しにくい革)だろう。実際に目にしている革のほとんどは、いわゆる飴色になる革ではない。なのにどういうわけか「革といえば変化、飴色」というイメージはあるんじゃないかと思う。
考えてみれば結構不思議ことだ。

「何故か?」という理由は考えてみるつもりだけど、その前に考えおきたいのは、わたしたちはふつう「味が出る」「艶が出る」「飴色になる」といった変化を好ましく捉えているということ。別の言い方をするとわたしたちは「それを楽しみにしている」。

変化は自分が革と過ごした時間の現れと言えるかもしれない。自分が革と過ごした関わりが目に見えることを楽しみにしているし、それは「よく使った」とか「手入れをした」といったように関わりが深いだけ楽しみにもなる。

変化というのはもちろん最終的には「使えなくなる」に至る劣化も含んでいる。それでもわたしたちは使い始めよりも愛着を感じ、使いやすさを感じ、もっと使っていたいと思ってしまう。英語では経年変化のことをaging(エイジング)というけれどこれは「(人間が)年をとること」という意味も持った単語だ。少なくとも現代では人間が年を重ねることを単に劣化だと考える人はいないだろう。若さも魅力だけど、時間が経つことによってだんだんと現れてくる深みがある。真面目に生きていれば、人間にとってどの時間(年齢)がベストだとは言い難い。革というものも、そのようなものとして捉えられる部分があると、自分で使ってきて思う。


どうして大半の革は飴色にはならないのに。「革というのは使っていくうちに味が出る、飴色に変化していく」というイメージがあるのか。自分の想像になるけど考えてみる。

まず、それが革の面白さのひとつとして重要だから。特徴になるということはありそうだ。

そして、飴色に変化するのは確かにタンニン鞣しだけだけど、変化自体はどんなものでもする。クロム鞣しの革も触ったり、手入れすると艶はもちろん出るし、手垢や退色などで表面の色は多少変わる。5年10年使ったときに、「変化していない」とは流石にならない。
ただその変化が漠然と「変化する革」と言ったときにイメージするあの「飴色になる革の変化」と合致するかといえばそうではないはずだ。

タンニン鞣しの革は使い方によるが半年~1年で随分色は変化する(もちろんその後も変化するけれど)。そのことを伝えると「思ったより早い」と答える人も多かった。ゆっくりのイメージはクロム系の鞣しの風合いの変化のイメージだろうと思う。

「変化」という意味では、どんな革でも変化する。でも、「艶が出る」という変化と「飴色になる」という変化が別々の要素で起こっていることはあまり知られておらず、「艶」も「飴色」も一緒になって漠然としたひとつの「変化」という革の特徴のイメージとして持たれているのではないか。私たちは基本的には変化には好意的であり、日々観察している、多少「思ったより変化しなかった」と感じだとしても、「変化していない」とは流石に思わない。だからどんな革を持ったとしても革は変化するものとして認識されていく。もし、タンニン鞣しの飴色への変化の速さをしらなければ、「飴色になっている途中だ」と何年もなんとなく思い続けていたりもするかもしれない。



今回調べてみて改めて確認したけれどタンニン鞣しの歴史はクロム鞣しよりずっと長い。タンニン鞣しというのは「紀元前から続いている鞣し方法の一つ」(日本皮革産業連合会編集 「皮革用語辞典」よりタンニン鞣し)。そして、クロム鞣しは19世紀後半に発明されたという。歴史の長いタンニン鞣しが革のイメージとして強く、いくらクロム鞣しが普及してもそれが塗り替えられるには至っていないのかもしれない。


革と言っても結構いろいろなので、「革」が欲しいと漠然と思ったときに、買おうとしている革がどんな革なのか少し調べてみてから買うと面白いと思う。私もいまだにあたらしく知ることもあるのでどこまでも調べられる感じだけど、とりあえず、クロム鞣しか、タンニン鞣しかくらいわかると全然違うんじゃないかと思います



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