国立国際美術館の「コレクション1 遠い場所/近い場所」。ミヤギフトシの《The Ocean View Resort》を観た。

2022年7月7日木曜日

美術館・展示

 国立国際美術館の「コレクション1 遠い場所/近い場所」を見に行った。

空いていたというのもあるかもしれないけど、会話を控えるようにというボードを持った監視スタッフがいなくてほっとした。一人で行ったからしゃべる予定はなかったけど、そういう雰囲気のよさはやっぱり感じる。

「遠い場所/近い場所」とあるけど、場所のことをものすごく考えるというより、メインは沖縄出身作家とロシア・東欧作家の作品の展示という感じだった。


一番面白かった作品の話だけになるかもしれないけど、沖縄出身のミヤギフトシの《The Ocean View Resort》という映像作品について書こうと思う。
20分近い映像作品なので正直言って、全部見ると思ってなかったのに思わず離れらなかった。


《The Ocean View Resort》では、沖縄のある島に生まれ、アメリカに一度は住み、今は東京に暮らしている男性が、島に帰ったときに、同じく島に帰って来ていた知人の男性との会話の様子を映していた。

沖縄に関して作品となれば、沖縄戦だったり基地の問題だったりを想像すると思うけれど、この作品にも大きくその話は出てくる。

主人公の男性は今となってはさびれてしまったリゾートホテルの前にいたのだけど、その知人と話しているうちに、リゾートホテルが建つ前、そこには沖縄人がアメリカ兵に捕まった時に連れていかれる収容所があったとわかる。しかも知人の祖父はそこにいたという話だった。

私は戦争は嫌だし、基地というものを具体的にどうしたらいいかということはわからないまでも、問題だとは感じている。多分、そんなに突飛な感覚ではないとは思っている。
この映像作品を見ていて、でも、やっぱり戦争は嫌だ、とかそういうことを考えるのではなく別の感覚になった。

戦争について、沖縄の問題についての表現を見ている、というよりも、そういった記憶も含んだある人間たちの全体性を見ているという感覚だと思う。

「人間たち」と書いたのは、この作品には主人公と思われる男性の他に、その友人、そして友人の祖父が登場する。主人公に特化したというより、その3人それぞれの生きている全体や日常の中の一側面としての戦争や沖縄が描かれている。

私の祖父母は大阪で太平洋戦争を経験し、特に祖母はかなりその話を私にした。だから私はある種戦争について話すこともできるとも思うが、自分というものを表現しようと思うとそれも含んだ自分というものを考えた方が何かが言える気がする。

これまで見てきた戦争や社会的なテーマを扱う多くの作品とは、そこへアプローチする角度が違うように感じた。
沖縄戦について無視できないとか語らないでいられないという何かはもちろんあるけれど、こういう方向へ連れていきたいという感じはなく、方向感が薄い。こうした方がいいとか、こうだったらよかったのにという感じがなくて、しかしその事実自体は身にまとって生きていることがわかる。

登場人物たちが自分に当たり前のこととして話す感じが、自分の日常的な出来事を考えることと重なるからか、遠い沖縄の出来事をなぜか身近に感じるところがあったり、見てから1週間以上経ってまだ、作品のことを言葉にしようと考えている。

方向感の低さからからか、次になにが起こるかつかめないで見ていたのかもしれない。
どうなるのだろうというちょっと緊張した気分が、決して短くはない作品を見させる魅力だったんではないかと思う。



座ってゆっくり見れたのはよかったけど、映像作品が多かったため音が干渉していたことは少し残念だった。
そういったことなく、見てみたかったなと思う。