好きな絵のことをちゃんと話したい、と思い面白いとおもう作品を紹介する「名画からの一枚」を初めます。わたしが感じた絵の面白さが伝えられたらと思ってます。
そのうち「名画」以外も紹介したくなるかもと思いつつですが、とりあえずは名画のことくらいは話せたらなと思ってこのタイトル。
『バベルの塔』(1568)ピーテル・ブリューゲル1世 (59.9×74.6cm)
これを見たのは2017年国立国際美術館での『「バベルの塔」展』。
絵だけでなく展示も好きでした。この絵の凄さを展示で見せつけられたなという感じ。
最初に、絵を単体で見ての印象ですが大きいものを描くのに大きな画面が必要がないということが嫌というほどに見せつけられます。詳細を細かに表すことで小さな画面に巨大な塔を描いている。大きな絵を描くとどうしても、絵の前に立ったときに絵を見上げることになるんですが、小さいの絵なので正面から見ることができます。このことで、この塔からさほど離れていない大きな山の中腹かどこかから、この塔を眺めたような、この塔を描いたそのままの視点が共有できるのが面白いです。
もうひとつは、この絵でブリューゲルは以前の絵とは随分タッチを変えています。これは展示で気付かされたことなので、この一点ではわからないのですが。
バベルの塔は旧約聖書『創世記』のある一章に書かれています。ブリューゲルはこれ以前に宗教的な主題のものも、そうでないものも描いてますが雰囲気としてはどこかお伽話的というか、幻想的というか、現実を描いているという感じからは少しずれているように見える。おそらくその理由は、丸みを帯びた人物や物の描写、そして色彩はコントラストを強くつけてあったりベタッと塗った単調な感じ(赤や黄色などがわかりやすいですが)ではないかと思います。こういったタッチの影響はブリューゲルの少し前の時代にこの地域で人気画家だったヒエロニムス・ボスという画家にあるようです。
お伽話的、幻想的という雰囲気は、聖書の主題を描くのにはうってつけとも思えるのですが、この『バベルの塔』でブリューゲルは影響のあった人気画家の人気のスタイルを振りきって、現実的に描くというか巨大な塔を建てるとして実際にどうなるかということを考慮し尽くしてこの絵を描いたように見えます。
バベルの塔の話を読めば分かるのですが、塔の建設は神ではなく人間がすすめたこと。だから、実際に天にも届くような塔を建てようとすればどのようなことが起こるのかを精査した。例えば、どんな形状ならありうるのか、作業はどんなふうに進むのか、どんな用途がありうるのか、人々はそこでどう振る舞うのか、などなど。そんなふうに緻密に練り上げられた絵には、現実味があるというか、お伽話的雰囲気はもぎ取られている。そういったことによってヒエロニムス・ボスという影響を乗り越えた絵ではないか思います。建築物のラインはシュッとしていて、色は細かく塗り分けられてます。
ちなみにこの展示の副題は「16世紀ネーデルラントの至宝―ボスを超えて―」。展示から帰ってこの副題の意味を自分なりに読み取れたときは楽しかったです。
絵の説明というか、展示の説明になってしまったんですが、名画がその時代の中でなにを成し遂げたかわかっていくのは面白いです。
ボイマンス美術館HP バベルの塔
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『「バベルの塔」展』については以前も書いてます。
同じようなことですが、もう一度書いてみました。
「バベルの塔」展 ブリューゲル《バベルの塔》(1568頃)
「バベルの塔」展 展示について①ヒエロニムス・ボス
「バベルの塔」展 展示について②ボスからブリューゲルの《バベルの塔》へ
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